谷口ジローさん『欅の木』

keyakirin

谷口ジローさんをご存知でしょうか。
日本漫画家協会賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞をはじめ、フランス政府から芸術文化勲章シュヴァリエ賞を受賞された鳥取市出身の世界的な漫画家です。谷口ジローさんが亡くなられたのは今年の2月でした。代表作は『「坊ちゃん」の時代』『遥かな町へ』『犬を飼う』『父の暦』『神々の山嶺(いただき)』『孤独のグルメ』など思い浮かぶ名作はたくさんあります。
それら名作の中のひとつに市井に生きる人々の哀歓を描いた「人びとシリーズ」(原作 内海隆一郎)と呼ばれる作品があります。その一作に『欅の木(けやきのき)』という名作があります。

[あらすじ]
<…仕事を引退し、老後は夫婦ふたりで緑あふれる家で暮らそうと思い、
都心から1時間余りの郊外に中古の家を購入した原田夫妻のお話しです。

…引っ越しの前日に家を訪れて愕然とした。梅や木蓮、椿など色とりどりの庭木が植え込んであった庭が、すっかり根こそぎなくなってきれいになっている。
…ショックのあまり夫婦は声が出ない。しかし、ふと見廻すと庭の隅っこに大きな欅の木だけが残っている。…引っ越して間もなくすると近所からは落ち葉の苦情が相次ぐ。この欅の木も切ってしまおう…しかし…
(続きはぜひ本を購入して読んで下さい)‥>

「欅の木」の発表は平成5年「ビックコミック5月10日号」、出版は平成10年。
漫画が発表された翌年、平成6年、NHKで連作『欅通りの人びと』としてドラマ化され全19回の平均視聴率は12・9%に達し、名作だと評価が高いのです。
人情の微妙な機微と温かさに加え、美しい視覚的イメージが静止画で与えられ、心に沁みいり、人と人との出会いや交わりが希薄になった現代において余韻のある作品です。

昨年6月、谷口ジローさんが本の学校に来られる予定がありました。
日本文芸家協会が主催するシンポジウムでした。昨年、今年の二年間は夏目漱石生誕150周年記念イベントが全国で計画され、米子では「夏目漱石」をテーマに『「坊ちゃん」の時代』の原作者 関川夏央氏と谷口ジロー氏との対談及び講演会の計画がありました。しかし谷口ジローさんはそのときすでに体調がすぐれないとのことで叶いませんでした。享年69歳。
もしシンポジュウムに出席されて、この国道431号線沿いのケヤキ通りの欅の木をご覧になっていたらどんな感想が聞けたのだろうか。
谷口ジローさんにはまだまだ活躍していただきたかった。(I)